放射線治療③ 前立腺がん治療「ハイドロゲルスペーサー」
2022.08.24(かけはしvol.112掲載)
前立腺がんについて
■増加傾向が高い前立腺がん
前立腺がんは、欧米人に発症頻度の高い疾患でしたが、近年、最も増加傾向の高いがんとして注目されています。その罹患率は30年で約16倍となっています。部位別にみても、最も罹患者数が多いがんであり、年齢別に前立腺がん罹患数をみると、50歳以降から罹患率が急激に高まります。
■早期の自覚症状がなく骨に転移しやすい
前立腺がんは、早期では自覚症状がありません。自覚症状が起きると進行している場合がありますが、前立腺肥大症にも見られ、症状だけでがんかどうかを識別するのは困難です。
また、前立腺がんは進行すると、リンパ節や骨に転移しやすく、場合によっては下半身の麻痺が生じることもあり、早期発見・早期治療が必要です。
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前立腺がんの放射線治療による直腸炎を防ぐ
ハイドロゲルスペーサー(SpaceOARシステム®)
「ハイドロゲルスペーサー(SpaceOARシステム®)」とは、前立腺がんの放射線治療の際に起こる副作用の1つである「直腸炎」を防ぐ技術です。
■直腸への放射線の照射を防ぐ
前立腺がんに放射線を照射すると、前立腺に隣接している直腸に一定量の放射線が当たってしまう場合があります。この影響により、直腸炎を発症、直腸から出血することで、止血の処置が必要になったり、腹痛や下血、下痢や排便回数の増加など、患者さんに負担がかかる場合がありました。
ハイドロゲルスペーサー治療では、前立腺と直腸の間にハイドロゲルを注入することで、直腸への放射線照射を抑えることができます。治療後はハイドロゲルは半年から1年ほどで次第に体内へ吸収されていきます。
■患部への照射量を増やせることで治療効果も上がる
これまでは直腸への影響を抑えるために、直腸に接する部分への照射量を抑えざるをえませんでした。しかし、ハイドロゲルスペーサーを使用することで、直腸への影響を考慮することなく、従来より高い放射線量を照射でき、治療効果の向上も期待できます。
■2023年春稼働のサイバーナイフ併用により治療回数の大幅減も
2023年春稼働予定の「サイバーナイフ」は、よりピンポイントに照射できる放射線治療機です。ハイドロゲルスペーサーと併用することで、従来の放射線治療の回数を大幅に削減できる予定です。
<ハイドロゲルスペーサー治療の流れ>
ハイドロゲルの注入は、針を使って行います。麻酔をして行いますので痛みはございませんが、2泊3日の入院が必要です。注入後は、通常の放射線治療と同様の治療を行います。