胃がん
腹腔鏡を使ったがん治療
腹腔鏡を使って胃を切除 痛みの少ない外科手術
お腹からカメラを入れ胃がんを切り取る
- 腹腔の中を映し出すモニターを見ながら、メスや鉗子を操る。
胃がん治療でもう一つ、注目されているのが、腹腔鏡補助下胃切除術です。腹腔鏡とは内視鏡の一種で、臍部周囲からカメラを挿入してお腹の内部を映し出す機器。近年、腹腔鏡を使った手術法が発達し、胃がん治療にも用いられるようになりました。腹腔鏡手術はプロ野球の王貞治前監督が胃がんを患った際に受けた治療法として報じられたことからも、知名度が向上。2007年からは保険も適用されるようになり、腹腔鏡を使った胃がん治療は、次第に広く普及し始めています。
腹腔鏡手術は前述のESDより、やや進行した胃がんに用いられます。内視鏡治療との大きな違いは、リンパ節に転移したがんにも適応されるという点。内視鏡治療が胃の粘膜下層を切り剥がすのに対し、腹腔鏡手術は胃の一部、または全部を切除します。
また、内視鏡治療は口から管を通して胃の内部にカメラを入れ、胃の内側を治療しますが、腹腔鏡治療はお腹の一部に切り込みを入れ、腹腔鏡を挿入し、その観察下に種々の器具を用い、開腹による手術と同様の治療を行うものです。
腹腔鏡手術は主に胆嚢摘出手術や大腸がんなどで行われてきましたが、手術法の発達に伴い、胃がんにも応用されるようになりました。外科天谷奨医師は、福井県ではまだ取得者が少ない日本内視鏡外科学会の技術認定医(審査対象 胃)の資格を取得し、同外科島田雅也医師(内視鏡外科技術認定医)と共にチームを組んで、すでに数々の施行実績を有するエキスパートです。
切除から縫合までモニターを見ながら操作
腹腔鏡手術は、腹腔内に入れたカメラ(腹腔鏡)で映し出された映像を見ながら手術を行います。腹腔とは充分なすき間がないため、そのままでは手術が行えません。そのため、まず上腹部に5カ所のポート(穴)を開け、その一つから炭酸ガスを入れて腹腔を広げ、手術する空間を確保します。続けて腹腔鏡を挿入。腹腔の中の様子をモニターに映し出します。残りの四つのポートからは鉗子や電気メスなどの治療器具を挿入。モニター画面を見ながら、手元は器具に集中させ、病巣を掴んだり切り取ったりして手術を進めます。[図2]
手術前には、胃カメラ、胃透視検査、CT、MRIなどでがんの深さや転移をしっかりとチェックし、病巣を切除。
手術にあたる医師2人と、スコピストのチームワークが大切。
手術にあたるのは3人。一人はスコピストと呼ばれ、腹腔鏡カメラを持って腹腔内の映像を映し出します。残り2名の医師は、モニターに映し出された腹腔の映像を見ながら、数種類の鉗子やメスを駆使し、胃の切除にあたります。
手術のポイントとなるのが止血です。胃の周りには重要な血管が4本あり、胃を切除するにはこの血管を切らなければなりません。しかし、出血が大量になると血液でレンズが汚れ、患部が見えなくなってしまいますし、何より患者さんの身体的負担が大きくなります。そのため、術中は血管をクリップで止めるなどして、出血量を抑えながら手術を進めていきます。実際の出血もせいぜい数十ミリリットルで、今まで輸血を必要としたことはありません。また、胃の周りには内臓脂肪が癒着しています。リンパ節は脂肪の中にあるため、がんが転移したリンパ節を取り除く際には、脂肪を傷つけてがん細胞を散らさないよう、慎重に切り取っていきます。
このようにして切り取った病巣を腹部の切り込みから取り出し、摘出は終了。その後は、残った胃と十二指腸を縫合します。モニターを見ながら、最後まで慎重に縫い合わせていきます。
。
開腹手術では見えない腹腔の奥に迫る
腹腔鏡手術のメリットは、内視鏡治療と同様、患者さんの身体的負担が少ないことにあります。開腹手術に比べると手術時間は若干長くなりますが、傷が小さいため、痛みも少なく、術後の回復も早まり入院期間も短くなります。
開腹手術と比べてのメリットは他にもあります。開腹手術ではお腹の中の限られた範囲しか見ることができませんが、腹腔鏡を使うと内腔の奥までカメラが近づいて開腹では見ることのできなかった血管まで鮮明に映し出します。腹腔鏡手術で培った経験を開腹手術にフィードバックすることで、今後の胃がん治療の質の向上につなげられます。
腹腔鏡手術は病状などによって適応できるケースは限られますが、適応が可能と診断された患者さんのほとんどが、腹腔鏡での手術を希望しています。手術の技術もチームワークもさらに向上させ、患者さんにとって一番良い治療を行っていきます。
-
お腹の中に空間を作り、中を照らすことで幹部を鮮明に。
画質はデジタルハイビジョンで、かなりリアル。 -
腹部に穴を開け器具を挿入し、
手先に神経を集中して操作。 -
器具や機器の進化も、
腹腔鏡手術の質を高めている。