膵がん
がんのリスクをチェックし、早期発見につなげる
早期発見が難しく、治療しにくいがん
診断や治療が難しい「やっかいながん」として知られているのが膵臓にできるがん、膵がんです。なぜ膵がんがやっかいながんといわれるのか。それは、早期発見が非常に困難ながんだからです。
膵臓は、背中に近い胃の裏側にあります。胃の陰に隠れるようにあるためがんを見つけにくく、口とつながっていないため内視鏡で直接幹部を診ることもできません。また、初期の膵がんは自覚症状がほとんどないことも発見を遅らせる一因となっています。そのため、発見された時点で、すでに手術ができない状態にまで進行していることも。また、膵臓の周りには、胃・十二指腸・肝臓・胆のう・脾臓などの重要な臓器や血管、神経が集中しており、これらにがんが転移して治療が難しいというケースも少なくありません。
膵がんが手術適応の1〜2センチの大きさになるまでに、およそ5〜6年かかるといわれています。それまでに見つけることができれば、手術が可能となり生存期間の延長も期待できます。つまり、がんを早期発見し、手術で取り除くことが、患者さんの心身の負担を軽減することにつながるのです。
膵がんは進行度に応じてステージⅠからステージⅣに分類されますが(図・表1)、当院ではその前の段階である"ステージゼロ“で発見することを究極の目標として、膵がん診療に取り組んでいます。
自分で膵がんの可能性をチェックするリスクカード
当院で膵がんを担当している肝胆膵グループでは、早期発見の新たな試みとして、膵がんのりすくカード(図2)を作成、活用しています。膵がんの危険因子は正確には特定されていませんが、近年の研究で、膵がんにかかるのはどのような人が多いのか、その傾向が明らかになってきています(表2)。肝胆膵グループに所属する内科医長野村佳克医師は、全国の膵がんエキスパートが集まる膵臓胆道がん研究グループに所属し、長年、膵がんの早期発見の研究に取り組んできました。
同グループでの研究結果をもとに作成されたリスクカードは、年齢や生活習慣、既往歴などから膵がん発祥のリスクを点数化。自分の情報をカードの項目に照らし合わせて、該当するものがあれば加算し、点数に応じてどのような検査を受けることが望ましいかが一目でわかるようになっています。合わせて、画像検査で膵のう胞や膵管拡張(3ミリ以上)、膵石が見られた場合も検査につなげています。
当院では自覚症状の有無にかかわらず、リスクカードを積極的に活用することで、早期発見につなげています。
内臓の内側から超音波、組織を採取し診断
膵がんの診断技術は、近年大きく進歩しています。現在主流となっているのは、CTやMRIのほか、超音波内視鏡(EUS)、内視鏡を使った造影検査(内視鏡的逆行性胆管膵造影:ERCP)などの画像検査です。
超音波内視鏡(EUS)とは、内視鏡の先端に超音波(エコー)を取り付け、胃壁や腸壁を通して超音波検査を行う検査法。内臓の内側から至近距離で膵臓に迫ることで、患部を詳細に観察できます。さらに、当院では必要に応じて内視鏡の先につけた針で組織を摂取する超音波内視鏡下穿刺吸引生検法(EUS-FNA)も行っています。画像診断で判断が難しい場合でも、組織を採取することで、良性か悪性かをより正確に診断することが可能となります。
超音波内視鏡下穿刺吸引生検法(EUS-FNA)での検査。
超音波内視鏡の先端に取り付けた穿刺針で膵臓の組織を採取し、診断します。
①EUS-FNAにより採取された膵臓の組織。この検査により、画像検査よりも正確な診断を行うことが可能です。
②EUS-FNAで用いる検査機器。先端に超音波内視鏡と穿刺針がついており、正確かつ安全に針生検を行えます。
③ERCP検査で用いられるカテーテル
④ERCP検査で得られた「膵上皮内がんの膵管像」。膵管と胆管の出口にカテーテルを入れて造影剤を流し込み、膵管や胆管の形をX線撮影で調べる検査です。