肝がん

TACEとは

肝がんに有効なTACEという治療法

 肝がんの治療法として、近年、注目が高まっているのがTACE(肝動脈化学塞栓療法)です。
 TACEとは、肝がんに栄養を送る動脈に薬剤を注入して血流を塞ぎ、がんを壊死させるという治療法。いわば、がんを〝兵糧攻め〞にするという手法です。この治療法は1970年代に日本で開発されました。

 以後、肝がんに対する有効な術式として普及してきましたが、血液を塞ぐ塞栓物質を広範囲に注入することから治療効果の割には副作用も強く、一時は下火となっていました。しかし、近年、この治療法が再び見直されるようになってきたのです。
 もともと肝がんに有効な治療法ではありましたが、近年になってTACEに使用する装置や器具が大幅に進歩したことが大きいといえます。

新カテーテルの登場で大きく進歩したTACE

モニターを見つめながら、手技を行う。細かい血管内へは画面を拡大して、慎重にカテーテルを進める。
血管の曲がり具合に応じてガイドワイヤーを曲げるなど、細かな動きが必要なため、指先に神経を集中させ、カテーテルを操る
わずかな動きも見逃さないよう、画面を見つめるまなざしは真剣。

 肝がんはがんに血液を送る〝栄養血管〞が発達しているため、栄養血管を塞ぐTACEは有効な治療法です。より高い効果を出すには、できるだけ腫瘍の近くで薬剤を注入する必要があります。この治療法の効果を左右するのは、いかにがんの近くに迫れるかどうか、薬剤を注入するカテーテルをどれだけ血管の奥まで挿入できるかが重要となります。ところがカテーテルは主に心臓や脳疾患を対象として作られ、特に海外では腹部での使用例が少なかったこともあって、肝臓専用のカテーテル自体の開発がおざなりになっていました。そのため、かつてはTACEで心臓や脳のカテーテルが使われることも珍しくありませんでした。

 しかし心臓、脳、内臓。それぞれの血管は、太さや形状がまったく違います。肝がんに使用するカテーテルはそれに適したものでなければ効果が出ないと考え、当院宮山医師が専用のカテーテルの開発をメーカーに依頼しました。開発・改良が重ねられたカテーテルは、その直径約0.58ミリという極細のもの。その中にはさらに細いガイドワイヤーが収まります。この新カテーテルの誕生で、よりがんに近い血管に薬剤を注入することが可能となり、TACEの治療成績は大きく進歩することとなったのです。

3D画像で目的の血管を正確に抽出

注入する薬剤の量は、わずか数ミリリットル。カテーテルの操作もデリケートに行われる。

 当院でTACEを行うのは、画像診断センターの中にある血管撮影室。血管はX線透視では見えないため、血管内にX線を透過させない造影剤を注入して血管の状態を画像化します。当院では2014年4月にこの血管撮影装置を一新。ターゲットとなる栄養血管をよりスムーズに見つけられるようになりました。

 栄養血管は見つけにくいのが難点。特に小さな肝がんの場合、栄養血管が細く、特定するのにかなりの時間を要していました。それを改善したのが、この最新型血管撮影ワークステーション。コーンビームCTのデータを用いて、コンピュータが腫瘍の栄養血管をわずか2分程度で自動的に見つけ出します。コーンビームCTからは同時に3Dの血管画像も作成できるため、診断・治療の精度も向上。栄養血管を見つける時間が短縮されることで、治療時間が短くなるのはもちろん、造影剤の使用量、被ばく量も最小限となり、これまで以上に体に優しい治療が可能となりました。当院の画像診断センター所長 宮山医師はこの血管撮影装置の開発メーカーとの共同研究でTACE支援ソフトの開発に協力。国内でいち早く当装置を導入し、臨床に役立てています。

TACEの施術は診療放射線技師、看護師らによるチームで行うのが基本。血管撮影装置のモニターに映し出される画面の切り替えや、ズームアップは隣室の技師が行う。スタッフが5台のモニターに映る血管造影画像、CT画像、3D画像を見て、治療の進行状況を共有・確認する。

①血管造影画像。細い血管も鮮明に映し出す。②コーンビームCTのデータから作成した3D画像。コンピュータが栄養血管を見つけ出し、塞栓ルートを示す。③、④はカテーテルによる血管塞栓の様子を映した画像。赤い矢印で示した部分が肝がんの病巣部で、がんに向かって延びているのが栄養血管。青で示した矢頭がカテーテルの先端部で、がんの間近まで迫っていることが分かる。

血管を塞栓する最新塞栓物質・ビーズ

 画像が映し出されたモニターを見ながらカテーテルを挿入し、がんの直近へと迫ったら、抗がん剤と血管を塞ぐ物質(塞栓物質)を注入します。近年、この塞栓物質にも新しいものが登場。球状塞栓物質(ビーズ)と呼ばれる、100〜300ミクロンの細かな粒子が血管をくまなく塞栓します。
 これまでの塞栓物質は大粒で形も不揃いだったため、血管の奥まで届きにくかったのですが、ビーズはミクロンサイズと極小。血管の太さに合わせて均一サイズのビーズを注入することで、目的の血管をより密に塞栓できるようになりました。
ビーズはスポンジ玉のような構造になっており、抗がん剤をしみ込ませることもできます。カテーテルでがんの近くに迫ってビーズを注入することにより、塞栓後、抗がん剤が少しずつ溶出してがんを攻撃します。治療効果は従来のものと比べるとやや劣りますが、今までの方法では効かなくなった腫瘍に効果があったり、肝臓への負担や副作用が少なくなるなどの利点があります。ビーズは2014年2月より保険適応となり、当院でもそれに合わせて使用を開始しています。

身体的負担が少なく、適応できるケースは多い

 TACEはメスを使わず、時間も短いため、患者さんへの身体的負担が少ないのも大きな特色です。また、がんの近くで薬剤を注入するため、正常な細胞に及ぼす影響が少なく肝臓に負担をかけにくいのもメリットと言えます。
 さらにTACEの良さは患者さんの状態に応じてフレキシブルな対応ができる点にもあります。他の術式は肝機能が低下している患者さんには適応できないケースがありますが、TACEは肝臓への負担が少ない分、適応範囲が広く、また、がんをピンポイントで狙えるので、腫瘍が幾つもある場合には、何度かに分けて治療を行うなど患者さんの体力や腫瘍の進展状況などに応じた調整が可能です。

 このように脚光を浴びるようになったTACE。当院でも2002年に新カテーテルを導入して以来、治療成績は向上しています。新カテーテルに加え、血管撮影装置の精度が上がったことで、今後はさらなる治療成績の向上が期待できます。

道具や装置の改良でさらなる可能性も

TACE用の血液間造影キット

「もっと使いやすく」という宮山医師の声が随所に反映されたTACE用の血液間造影キット

 極細のカテーテルを目的の血管内に誘導するのは一見難しく見えますが、決して特殊な治療ではなく、どの医師が行っても同じような結果が得られる治療でなければ本当に真の意味でよい治療とは呼べません。TACEが普及していくためには、今後、どの医師でも使いやすいよう改良されていくことが課題の一つです。そのため、当院宮山医師はメーカーの製品開発にも協力、2016年5月には0.5ミリのマイクロカテーテルが完成し、使用を開始しています。
 いろいろな装置や道具を使ってみて、意見をフィードバックするのも大切なことです。よりよい製品の開発につながれば、結果的に患者さんのためになるのです。

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