乳がん
センチネルリンパ節生検
術後の後遺症を減らす
切除範囲を最小限にし、術後の負担を大幅に軽減
乳がんは腋窩リンパ節に転移し、そこから全身へ広がる恐れがあるため、がんを確実に取り除くことを最優先してリンパ節を切除するのが標準とされています。
その際、問題となるのが後遺症。術後の腕のむくみ(リンパ浮腫)は約10人に一人の割合で発生する治療が非常に困難な症状です。また、脇の下のしびれも大半の人に発生。腕が上がりにくくなることもあり、術後、リハビリが必要となるケースも少なくありません。
乳がんの手術を受ける人のうち、腋窩リンパ節にがんが転移している割合は、10人中4人。これまで転移の有無は切除した組織を検査してみなければわからないため、残りの6人は、結果として取る必要のないリンパ節をも切除していました。
これを防ぐために行われるのが、センチネルリンパ節生検という検査です。
「センチネルリンパ節とは、がんが最初に転移するリンパ節。『見張りリンパ節』とも呼ばれ、このリンパ節に転移がなければ、それ以上遠くのリンパ節には転移がないと判断できます。この検査の生検率はほぼ100%。リンパ節転移の状況をほぼ正確に判定できるため、不必要に腋窩リンパ節切除を行わなくて済むのです。
センチネル生検は全国的にも導入する医療機関が増えており、当院でも2002年より当生検を開始。2003年から本格的に行い、これまでの7年間(2003~2009)で全乳がん手術の73.1%、561例の実績があります。
術中の組織検査で、リンパ節への転移を確認
センチネルリンパ節生検は、術前検査で腋窩リンパ節に転移がない場合に行われます。検査を行うのは手術中。リンパ節は脂肪の中に埋まっているので、術中にこれを探しだして、組織を切り取ります。モニター画面の映像を見ながらセンチネルリンパ節の見つけ方には、RI法と色素法の2種類があります。RI法は乳房にごく少量の放射性同位元素を注射。放射性同位元素はがん細胞に集まるので、検知器によって場所を特定します。
色素法は腫瘍の周囲に色素を注入。色素に染まったリンパ節により位置を確認します。当院ではこの二つを併用し、より確実にセンチネルリンパ節を特定。位置を確認できたら組織を採取し、すみやかに病理検査を行います。その結果、転移が認められない場合は、センチネルリンパ節のみを切除し、残りの腋窩リンパ節は温存。転移が認められた場合は標準術式である腋窩リンパ節切除を行います。
また、なかには検査でセンチネルリンパ節が見つからないことや、手術後の精密診断で転移が見つかるケースも。その場合も腋窩リンパ節を切除します。したがって、センチネルリンパ節生検=腋窩リンパ節を温存というわけではありませんが、これにより不必要な切除を行うケースは確実に減っています。リンパ節切除を行わなかった人は、術後約5日で退院できます。腕のリハビリも必要なく、きわめて早く社会復帰が可能です。